ヘレン誕生編 〜T-Fly ver.〜
T-Fly様 作
scene1-2
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「でも、本当なんだよ。あなたは私が改造を施して、蛸との生命融合体『ヘレン』となっているのよ」
「そんな冗談……」
「もう、しつこいなぁ……。じゃ、考えてみて。ここ3日間、今日までデュナイトに関する出動は無かったよね。どうしてだと思う?」
クインスの問い掛けにひかるははっとする。
その表情にクインスはゆっくりと口を緩ませた。
「心当たりがあるでしょう。この3日間、ひかるちゃんは内部勤務だったよね。朝早くから夜遅くまで。CPTの内部で変身してもらう訳にはいかなかったから、私たちは動かなかったのよ」
「そんな……。そんなの、嘘よ!」
ひかるは語気を強める。それはそんな事実は無いと強く確信したいという心の表われでもあった。
「もう……、これ以上は言い合っても無駄ね。あなたと話している時間は無いの。そろそろ仕事をしてもらわないと」
クインスが指を1つ鳴らす。するとクインスの上の空間が歪むとそこから桃色の物体が現れた。
丸いその物体は目のような切れ込みが2箇所あり、真下に大きな穴があった。ぱっと見た感じ、蛸の頭のような形をしていた。
桃色の物体は徐にひかるの頭上へ移動してくる。さらに……
「えっ?」
腰を抜かしているはずのひかるは軽々とその場を立ち上がる。それは彼女の意思ではなかった。まるでその物体を体が受け入れるかのような行動だった。
「そんな……、嫌……」
意志は逃げようと体に指令を出すが、体は全く反応しない。腕も脚も指も全くひかるの言うことを聞いてくれない。
「さあ、ひかるちゃん、仕事の時間だよ」
クインスの一言で桃色の物体はゆっくりとひかるに近づいてくる。
「嫌……、やめて……! 嫌ぁ---------!」
ひかるが悲鳴を発した直後、桃色の物体は真下の穴から彼女の頭半分に覆い被さった。押し退けられたモノバイザーが乾いた音を出して、コンクリートの地面に落ちる。
「ああ-------------- っ!」
直後、ひかるの頭を針を無数に刺されるような痛みに襲われる。痛みはまるで貫通するかのように脳の内部へと広がっていく。桃色の物体がひかるの深層意識との融合を開始したのだ。
その様子をクインスは楽しそうに眺めている。
そんな周りの状況などわからないひかるの脳裏に封印されていた記憶が蘇っていた。

あれは、1週間前のこと。
仕事を終え、帰宅している途中だった。夜は更け、人影は全く無い。街灯と月光が行く道を延々と照らしていた・
「……碓井ひかるさんですね」
道の光の切れ目でひかるは呼び止められた。
ひかるが振り返るとそこには黒いコートを身にまとった女性が1人立っていた。
「誰?」
ひかるは良からぬ気配を感じた。周りを見回す。
いつの間にか同じ姿をした女性が自分を取り囲んでいた。
「すみませんが、私たちと一緒に来てもらいましょうか?」
「断ると言ったら?」
その答えに女性たちはコートを一斉に脱ぎ捨てる。
そこには紫色の肌を持った女性たちがナイフや釵を持って臨戦態勢を整えた姿があった。
「くっ!」


ひかるは襲い掛かる女性たちを次々と捌いていく。合気道5段、柔道3段、剣道3段に空手は黒帯とあらゆる武道に精通しているひかるにとって、並みの戦闘員をあしらうのはそれほど苦ではなかった。
「……早く連絡を取らないと」
ひかるは隙を窺い、上着のポケットから小型通信機を取り出そうと手を伸ばす。
が、素早い剣筋がその動きを遮断する。
「碓井ひかる、おとなしく来てもらおう」
新たな敵がひかるに迫ってくる。
陰になって姿ははっきりと見えなかったが、そのシルエットだけで明らかに周りの戦闘員たちと違う存在であったことはわかった。
素早い動きがひかるを一気に追い詰める。いつの間にか形勢は変わり、ひかるは路地の隅へ追い詰められていた。
「くそっ……」
ひかるは強く歯を噛み締める。死を覚悟する。
「尚美、後は頼んだわよ」
小声でそう呟くと、近くに落ちていた鉄の棒を手にして、立ちはだかる人影に挑んでいく。
「ぐっ……」
その直後、ひかるは無意識な吐息を出して、力無くその場に倒れた。
敵の太刀筋が一瞬早くひかるの鳩尾を捉えたのだ。
「全く手間を掛けさせる。クインスの指示というのも嫌だし、こんな細かい仕事、これっきりにして欲しいものだ」
ひかるは意識をはっきりさせようと懸命に目を開き、体を起こそうとする。
そんなひかるが目にしたのは彼女を倒した敵の、銀色の鎧に包まれた脚だった。
意識はそこで途絶えた。

「う……ん……」
ひかるは静かに目を開ける。
眩しい光が彼女の目を直撃する。思わず手を動かして遮ろうとしたが出来なかった。
「えっ……」
体の異常を感じたひかるは意識を完全に取り戻すと現状を把握しようと辺りを見回す。
裸にされた彼女は丸い台の上で手足を拘束された状態で大の字にされていた。
しかも台の表面は妖しい色が浮かんで消えていく。気味の悪い物体だった。
「何、これ?」
「気がついた?」
ひかるは声が聞こえた方向に視線をやる。そこには怪しげな衣装に身を包んだ小柄な女性が立っていた。
「あなたは誰?」
「私はクインスっていうの。S.S.B.の副官って言えばわかりやすいかな」
「私をどうする気なの?」
「あなたに働いて欲しいの。私たちの味方として」
「そんなこと、する訳ないでしょ!」
いつも冷静なひかるが怒りを露にする。
「いや、怖い。……でも、そう言うと思っていたわ。だから、無理矢理にでも味方になってもらうわ」
「何ですって……」
「デュナイトって知ってる? もちろん知ってるよね。いつもあなたたちが追い掛けているんだから」
クインスのこの言葉にひかるの表情が強張る。良からぬ想像が頭を埋めようとしていたためだ。
「まさか……」
「ふふふ……。そのまさかよ。あなたにはデュナイトとして生まれ変わってもらうから」
 「そんな……、そんなの嫌よ!」
 ひかるは手足を懸命に動かし、抵抗の意志を示す。だが、頑丈に嵌められた拘束具のために現状を変えることは出来ない。
 「あなたに選択肢は無いわ。早速始めさせてもらうから」
そう言うとクインスは振り返り、背後にある機械のボタンをいくつか押していく。
すると、ひかるが寝かされる台の両側からガラス製の球体の蓋が彼女のいる空間を包んでいく。
 「嫌よ! ここから出して!」
 ひかるは声を挙げ、体を揺らして現状を変えようとするが、その影響は全く現れなかった。クインスはその間も機械の操作を続けている。
 「気絶している間にやっちゃおうと思ったけど、一応、最後に普通の人間としてお別れ言わせてあげたいなって思ってあげたんだから、感謝はして欲しいよね」
 邪悪な笑みを浮かべて、クインスが1つのボタンを押す。
「いや ------------------ ぁ!」
 ひかるの悲鳴と共に閉じ込められた空間を怪しい光の点滅が覆い尽くす。次第に中にいるひかるの姿は見えなくなっていった。
 「ふふふ。あなたにはCPTに潜り込むスパイとしての仕事もしてもらうわ。ただ、その自覚は人間に戻っている時には無い。私たちが必要な時に変身してもらって、改造戦士として戦ってもらうから」


「うわ-------------------- ぁ!」
再び、ビルの地下。
桃色の物体に頭を包まれたひかるは苦しんでいた。
「はああ……、ああっ……、ああ……」
そんな彼女の体に変化が現れる。
桃色の物体からピンク色の光が彼女を包み出した。光は全身を包み込むと、彼女が身にまとっている服、靴を全て光の中へ消し去っていく。
裸になったひかるの胸が小さく弾む。そして、ゆっくりとそのバストを膨らませていく。同時におしりも膨らみ、腰は更にくびれていく。普段でも女性として理想的な体形を持つ彼女の体がより魅力を持つ体に変化していく。
これはクインスがヘレン=ひかるということが即座にバレないように体のサイズも改造したためだ。
その間にひかるを包み込む光は強くなっていく。その光は脚から肩に掛けて胸元とおへそが大きく開いたレオタードを、手はピンク色のレザー状の手袋を装着させる。
踵から骨が伸び、黒く染まると足先はブーツ状に変化する。
艶やかな碧い髪はいくつかにまとまりながら、吸盤を持った触手へ変わっていく。
彼女の背中や脇腹からピンク色の触手が生え、吸盤を出しながら、ひかるの手足に絡まり、自由自在にうねっている。
この時点で外見は蛸のような姿に変化を完了してしまっている。
「あっ……。ああ……。」
ただ、ひかるは未だに小さな声を挙げ、必死に自分の心を堅持していた。

助けて……。こんなの嫌……。
何を嫌がっているの。
誰? 誰でもいい。私を助けて。
素敵な姿になったじゃない。
そんなことない。私は碓井ひかる、人間よ。
これで鳳尚美を超えられるわ。
尚美を? そんなつもりはないわ。
嘘。本当は彼女より強くありたかった。そうでしょ?
そんなことない。そんなことは……。
私は知っているわ。あなたの本当の気持ち。
本当の気持ち……?
そう。あなたは強くなりたいのよ。鳳尚美よりも。そして、誰よりも。
誰よりも……強く……。
そうよ。あなたは強くなったのよ。
強くなった? ……そうか。私は強くなったんだ。
そう。そして、その力は与えてくださった方のために使うの。S.S.B.のために……。
S.S.B.のために……。そう。私はS.S.B.の戦士、ヘレン。
そう。あなたの名前はヘレン。さあ、飛び立ちなさい。苦しい心の牢獄から飛び出し、あなたの真実と自由を手にするのよ!

ひかるを包んでいた光はガラスが割れるように四方八方に飛び散り、その姿を消した。
同時にひかるの体は地に落ち、膝をつくと、小さい呼吸を繰り返しながら、じっと俯いている。
「さあ、目覚めなさい。ヘレン。」
その声にひかるは妖しく微笑む。そして、クインスに跪いた。
「はっ、クインス様、何なりとご命令を」
抑揚された声にはいつもの明るいひかるの面影はなかった。
頭の母体に精神を支配され、身も心も邪悪に染まった瞬間だ。
「いつもの仕事よ。戦闘員や改造戦士に適した女の子を探して、あなたの墨で下僕に変えるのよ。良いわね?」
「はっ。仰せのままに」
「あっ、そうそう。あと、鳳尚美も捕まえられそうだったら捕まえてみて。墨を噴き掛けても良いから。あの子は良い素質を持っている。改造戦士に適しているはずだわ。……しばらく彼女の素体を向上させるためにあなたの分身を忍ばせるのも良いわね。……まあ、とにかく何か手を施してきてよ」
「かしこまりました」
ヘレンはゆっくりと頭を上げる。頭を覆ったヘレンの母体の奥ではひかるだった女性の赤く染まった瞳が邪悪な輝きを放っていた。

【 END 】

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