Killer Dolls
T-fly様 作
scene1-2
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再び神社。
愛流の行動にΩたちの動揺は見られなかった。
「1人ずつと思っていたが、4人まとめてくるのはかえって好都合だ。やれ!」
Ωの号令とともに境内の木々の間、上からたくさんの人影が出てくる。
Ω直属の戦闘員たちだ。
黒を基調としたレオタードを身に纏い、様々な色の武装を施した女性たちが愛流との距離を徐々に縮めていく。
「Fix!」
直後、愛流が拳を握って叫ぶ。
愛流の腕時計が強い光を放つと数秒の内に彼女の体に強化スーツが装着された。
一瞬の白い光が和らぐと同時に戦闘員たちは愛流に突っ込むように襲い掛かる。
「えいっ!」
向かってくる戦闘員たちを愛流は見切り、次々と身を翻していく。
戦闘能力は低いものの、日頃から訓練している合気道の動きを利用して戦闘員たちの体を押しのけていく。
戦闘員たちは愛流にかわされながらも次々と襲ってくる。
その数は半端ではなかった。
それにS.S.B.に拉致され、強化改造・洗脳された戦闘員たちの能力は計り知れず、息を切らす事無く、絶え間を与えない攻めを続けてくる。



「くっ…。」
一方の愛流は徐々に動きが鈍くなってくる。
強化スーツを身に纏っているとはいえ、元々は人間。持久力にも限界が来ようとしている。
それを考えてか、愛流は逃げ道を確保しようと戦闘員たちをかわしていくが、予想以上に数が多く、思い通りに道を作れないでいた。
「そろそろ良いかしら…。」
苦戦する愛流を遠目で眺めるΩが手元を動かし、何かを取り出した。
赤い宝石のような物体、よく見れば虫の化石みたいな形をしている。
その手をすっと眼前へ上げた。
「水無瀬愛流、我が下僕になるのよ!」
Ωが力強く物体を愛流に投げつける。
同時に戦闘員たちが物体の軌道を造ろうと一斉に愛流の周りから身を引く。
「えっ!?」
投げられた物体は塊から四方八方に欠片として分裂する。そして…
「きゃっ!」
欠片は愛流にぶつかると、脚、腰、胸、肩、腕、額など体の各部分に付着する。
「何や?これ…」
愛流が破片を見つめる。
脚や腕には細い破片、胸にはどんぐり上の破片、肩には羽根のような形のもの、そして、額には丸い形…。それらは何かを意味しているように見えた。
「すぐにわかるわ。…あなたは最強の戦士に生まれ変わるのよ。」
「何を…ぐっ!」
言葉を遮ろうとした愛流が胸を押さえ、苦痛の表情を浮かべる。
「始まったわね。あの子の”闇”探しが。」
ΩとΘは口元を緩めて、苦しむ愛流を見つめる。
「愛流!」
「愛流ちゃん!」
愛流を呼ぶ声と共に栗栖と或徒が境内へ続く階段を駆け上がってきた。
危険を察知してか、彼女たちは既に強化スーツが装着されている。
2人にまず飛び込んできたのは愛流の苦しむ姿。
「愛流!」
焦る2人が愛流に近づこうとするが、その間を戦闘員たちが割って入る。
その事態に2人は対峙せざるを得ない。
「丁度良いわ。あなたたちも見届けなさい。あの子が生まれ変わる瞬間を。」
「どういう事だ!?」
「ふふふ…。」
或徒の怒号にΩたちはただ笑みを浮かべるばかりだ。
「あっ…ああああ…」
愛流はその間も頭を押さえ、息を乱して苦しんでいる。

     愛流の心。
彼女の中の思い出。
父と母、幼き時代、初めて霊力に目覚めた時、柊由美子との出会い、或徒たちとの出会い、X−fixでの訓練、優しい施設のみんな、新しい生活、そして、戦闘…。

或徒は持ち前の戦闘能力で敵を翻弄していく。
栗栖はリーディングで怪人の心を読み、敵の動きを予測し助ける。
私は霊力を使役し、戦闘を助ける。
でも…
私の力は大した事無い。
怪人たちにすぐに破られる事が多い。或徒ちゃんの助けが無いと役に立たない。
…………。
…力。
…力が欲しい。
私だってX−fixのメンバー。
1人で戦える力が欲しい。
1人で敵を迎え撃つ強い力が…
「オマエノ心ノ闇、見ツケタ」

「ああああああああああああああ!」
苦しむ愛流の周りに黒いオーラが巻き起こる。
それに呼応するように愛流に付着した欠片が閃光を放つ。
「さあ、あなたの闇を開放しなさい。愛流!」
「いやあああああああああああ!」
愛流の叫び声と共に光を放つ欠片がその姿を変えていく。
脚に付いた欠片は愛流の脚全体を包みこむと、光を消すと同時に愛流の脚から太腿にはヒールの付いた赤い甲冑へと姿を変えた。
腰と胸のパーツは肥大し、腰にはハイレグ状の股当てと羽飾りが、胸には薄い鎧が装着され、彼女の胸を押し上げると、その上からさらに厚い鎧が彼女の胸を覆う。
腕と肩の欠片も肥大し、とげがついた肩当てと手甲に変化していく。
さらに鎧は愛流が着ていた強化スーツを取り込むとボディラインを魅せるかのように、胸から脚にかけて左右に赤いラインが引かれる。
額の欠片は横へ大きく広がり、彼女の額と側頭部を包み込むように位置づき、顔のようなデザインの鎧に変化する。
目を思わせる額の飾りの一部が妖しく光る。
「あああああああ…」
次第に愛流の顔にアイシャドウと模様が施されていく。
変化が止まると黒いオーラが引いていく。
引いた後には愛流が立っている。
しかし、先程の姿とは全く違っている。
全身を闇を匂わせた赤い鎧が身を包んでいる。背中には黒い斑点が入った羽根型の鎧が装着され、背中との間からは光の薄い羽根が見える。
…そう、彼女はテントウムシをモチーフにした鎧に身を征服されていた。
「さあ、忠誠を誓うのです。水無瀬愛流、いや、レディバード・ドール。」
Ωが鎧を纏わされた愛流に優しく呟く。
しばらく動きが無かった。
…鎧が小さく揺れる。直後だった。
愛流が跪いてΩたちに頭を下げる。
この様子に栗栖と或徒は呆然と見つめるしかなかった。
さらに
「偉大なるΩ様、なんなりとご命令を…。」


栗栖たちは耳を疑った。自分たちが置かれている状況を確認しようと頭の中はぐじゃぐじゃになっている。
愛流が顔を上げた。
そこにあったのはいつもの無邪気で子供っぽい愛流ではなかった。
鋭い目にアイシャドウ、そして、闇の紋章。
完全に闇に捕われ、冷徹な瞳でΩたちを見る鎧戦士に変わっていた。
「くそっ!」
或徒が前へ出ようとする。
「待って!今は行ってはダメ!」
栗栖が慌ててそれを制する。
栗栖たちは今の打開策を探るのが精一杯だった。
その様子をΩは退屈そうに見ている。
「醜い…。レディバード・ドール、あいつらを始末しなさい。殺さない程度でね。」
「わかりました、Ω様。」
既にS.S.B.の一員となってしまった愛流が2人の前に進み出る。
「愛流…。」
さっきまで仲間だった者の変わった姿に2人の動揺は隠せない。
「ふふふ、遊ぼう、X−f@x。このレディバード・ドールと一緒に。」
妖しい囁きと同時に愛流は高くジャンプする。同時に腰に付いている飾りを両手に取った。
「ウィングカッター!」
愛流の叫びと共に素早く飾りが投げられる。
「きゃっ!」
間一髪で栗栖が避けると、後ろにあった神社の木に向かっていく。
その直後、後ろで凄まじい音と共に土埃を巻き起こして、木が境内に倒れる。
その木を呆然と見つめる栗栖と或徒。
「まだまだだよ。もっと遊ぼうよ…。」
愛流が地上に降りる。そして彼女の手には再びあのカッターが現れる。
同時に戦闘員たちも栗栖たちを取り囲む。
その動きに栗栖たちが身を引いた瞬間だった。
戦闘員たちの間から愛流が瞬時に栗栖たちの間合いを詰め、武器を振り下ろす。
「くっ!」
愛流の攻撃を或徒が受け流す。
さらに愛流と或徒が攻撃と防御の応酬を繰り広げる。
歯を食いしばる或徒に対し、愛流はその戦いを楽しむように、闇に捕われた妖しい微笑を浮かべている。
「この程度なの?弱いんだね。はははは…」
闇の鎧の力により、体術を駆使する愛流が次第に押してくる。
栗栖も加勢しようとするが、戦闘員たちの抵抗でなかなか近づけないでいた。

突如、或徒の前から愛流が姿を消す。
栗栖の視界からも戦闘員たちが消えた。
一瞬だった。
栗栖と或徒に無数の宝石のような欠片が向かってきていた。
その向こうには行動を起こした後のΩが口を緩ませている。
「うわっ!」
「きゃっ!」
栗栖には青い欠片が、或徒には緑の欠片がそれぞれ体の至る所に張り付く。
「ああああああ…」
「うっ……!」
栗栖は頭を抱え、歯を食いしばって苦しみ始める。
或徒も自らの体を抱きしめて、衝動に耐えている。
その様子をΩ、Θ、レディバード・ドールと化した愛流が嬉しそうに見つめている。
「仲間の異変に状況が把握出来ないとは…。お前たちも我が下僕になるが良い。」
「いやあああああああ!」
先に変化が現れたのは栗栖だった。
彼女の体が闇のオーラに包まれると張り付いた欠片が肥大し、ヒールが付いた深青の鎧に姿を変えていく。脚、腰、胸、腕が征服され、額についていた欠片も彼女の頭を包み込むと2本の大きな角を生やした兜に変わる。
「ううううう…。」
顔にアイシャドウと模様が刻み込まれ、彼女の右手の手甲から白い2本の剣が飛び出す。
背中から光の羽根が飛び出すと同時に闇のオーラが消え、栗栖にはクワガタを思わせる鎧が装着されていた。
「うおおおおおおおお!」
その直後、或徒の体も闇のオーラに包まれ始めていた。
或徒に付いた破片は深緑の鎧に変化し、彼女の頭には大きな1本の角が付いた兜が装着される。
或徒から闇のオーラが引いた後にはカブトムシをイメージさせる鎧が彼女の体を支配していた。

「ふふふ…。目覚めなさい。スタッグ・ドール、ビートル・ドール。」
Ωの呼びかけに鎧に支配された栗栖と或徒が静かに目を開ける。
そして、鎧と石畳が奏でる衝撃音を響かせながら、Ωたちの前に進み出るとゆっくりと彼女の前に跪いた。
「偉大なる戦士、Ω様。」
「Ω様、このビートル・ドールに何なりと御用をお申し付けください。」
鎧の装着により、栗栖の記憶と感情はスタッグ・ドールとしての、或徒のはビートル・ドールとしての記憶に置き換えられていた。
その横にレディバード・ドールに変えられた愛流が跪く。
「お前たちはこれよりはキラードールズとして、私に従うのだ。私の下僕になれた事を誇りに、戦うがいい。」
「はい。全てはS.S.B.のために…。」
3人の顔には闇に包まれた微笑があった。

それから、しばらく…。
強く石段を蹴る音が境内に響く。
同時に1人の女性が長い髪を揺らしながら境内にやってくる。朝霧恵だ。
恵が境内を見回す。そこには何も無かった。
愛流からのS.O.S.があったはずなのに…。
恵は次第に強い緊張感に包まれていく。
「待ってたよ。」
無邪気な声に恵は見上げる。
鳥居の上。そこには邪悪な鎧に支配され、キラードールズに変身させられた栗栖・或徒・愛流の姿があった。
驚く恵の前に栗栖たちが飛び降りてくる。
異様な姿になった彼女たちを見て、恵はただ驚くしかなかった。
「これは、一体…。」
「ふふふ…。」
悠然と立つキラードールズの後ろに人影が写る。Ωが腕を組んで笑みを浮かべている。
「彼女たちに何をした!?」
「簡単な事。この子たちに素晴らしい鎧をプレゼントしたのよ。今日から彼女たちはS.S.B.の一員として生まれ変わったの。」
恵の瞳が怒りで鋭くなる。
「さあ、あなたたち、新しい力を昔の仲間に見せてやりなさい。正義なんてこの世に無い事を教えてあげるのよ。」
「はい、Ω様。」
「我々の敵、X−fix。」
「お前の命、戴くぞ!」
キラードールズの3人が武器を手に一斉に恵に襲い掛かる。
「Fix!」
恵は咄嗟に叫び、強化スーツを装着する。
望まない戦いが始まろうとしていた。

To Be Continued…。
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