「しかし。奇遇やね。」
「ええ・・・まぁ。」
たまたま、バイトの勤め先で、友達や家族に出会うことはよくある。
しかし、事件に巻き込まれる率はいくらだろうか。
そして、その人物がX-Fixの人間だという確率は・・・。
そう、マオはX-Fixの新人。これが奇遇というのなら、ボクはこんな運命を目の前に持ってきた神様を一生恨むよー。それが、マオの偽らざる本音だった。
「せんぱーい。で、ましろさんは・・・。」
「あかんね。いや、もう、ええとか、あかんとかいうレベルじゃあらへん。ちょっちかわいそうやけど、彼女は・・・しばらく、拘留せなあかんみたいや。」
そりゃそうだろう。死人や、けが人が一人も出なかったのは奇跡みたいなもんだ。
愛流は「やっぱり、あんた、S.S.Bか!? 」って言って、変身するし、ましろはましろで、「どいて、マオちゃん! どかないとそいつ殺せない! 」とヤル気満々だったし。
「・・・でも、ましろさんは、そんな人じゃない・・・と思う・・・。」
言ってて、声がどんどん小さくなっていくのが分かる。愛流も、そんなあたしの顔を見て、ちょっと表情を曇らせる。
「甘いね。S.S.Bは、人のそんな甘さを集中的に突いてくる。」
口をはさんだのは、或徒だった。ボーイッシュな格好と口調が、よく似合う少女だった。
「そ、そうですが、あたしは・・・。」
「マオは、ここ来たばっかりだから、分かってないかもしれないけど・・・。奴らは卑怯で・・・汚くて・・・。人の心を踏みにじり、もてあそぶ・・・。善意とか、仁義とか通じない相手、それが奴ら、なんだよっ! 」
ぎりぎりと、こぶしを握り締めながら答える或徒。
うつむいたその表情から、ただならぬ怒りと悲しみが漂ってくる。気がついたら、マオも固くこぶしを握り締めていた。そして、それは不安につながっていった。
現在、ほそぼそと生き残っている・・・いや、表面上は闇に滅したと思われている「忍びの血」。マオは、しかしその血を受け継ぐものの一人だった。
だけど、実戦経験は一度だってない。X-Fixは、マオに「隠れた才能」があると見込んで、彼女をスカウトした。しかし、マオの能力はそんな血肉を削るような争いにむいているとは思えない。
「そうだ! あんた、あの能力をましろって子に試した? 」
「いいえ・・・まだ。」
「ばかっ! 」
或徒の声は、まるでびんたみたいに痛かった。
「まさか。能力を使うのをためらってるんじゃないんだろうね。そんな甘いことを言ってると、これからの戦いで、深い傷を負うことになる。確かに、あいつのことを能力使って調べるのはきついだろうけど。今ならかすり傷ですむんだよ。」
「うん、分かるよ。」
口を開いたのは、栗栖だった。さっきからずっと黙っていたんだけど、ぼそり、と言った一言には、或徒の苛立ちを押さえつける何かがあった。
「だけどね、マオちゃんは、あの子信じてるんでしょ。ならば、ぎりぎりまで信じてあげても、いいと思うの。多分、それはあたしたちの戦いで、真っ先に殺ぎ落とされていくもの。だから、それがなくなってしまうと、もっと恐ろしいことになってしまうと思うのよ。」
先輩・・・。あたしをかばって・・・。こういうときの先輩は、いつも優しい。私と似たような、サイコメトリー能力を持っているから、その悲しみがわかってしまうのかもしれない。
一瞬、或徒が怒りのまなざしで栗栖を見た。だけど、栗栖は、それをまともに受け止めた。じっと彼女のまなざしを見た。しばらく、視線は絡みついたままだったけど・・・。
「っつたく、甘いね。アンタも、マオも。」
だけど、或徒は笑っていた。マオの心に、何か海のような安心が広がる。
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