Rising Red 〜G-fix Get Going!〜
ニシガハチ様 作
scene2.MonsterfromBlackMist  2-2
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人は闇を恐れる。
その理由を問われれば「何も見えなくて不安になるからだ」と答えるだろう。
しかし本当に恐ろしいのは、自分自身も闇に紛れてしまい自らの立ち位置を見失ってしまうことだ。

だがそれでも、そのことを恐れていられるうちはまだ幸せなのかもしれない。
真にその身を闇に堕としてしまった者は、自らが闇と同じであると自覚することすらできないのだから――――



それより数刻前。
恵と由美子がいたコーヒーショップからすぐ近くにあるビル街中心部の交差点には、長い渋滞の列ができていた。

「ったく、全然動きやしねー」

男はイライラしながらハンドルをバンバン叩く。
その音は、隣の助手席に乗っていた女を渋滞以上にイラつかせる。
女は思い切って切り出した。

「ねぇ、うるさいからやめ……」

女がそう言いかけた時、ガラスが割れる音と風を切る音がほぼ同時にして、女をイラつかせていた音がやんだ。
そして隣の男の方に向き直ろうとしていた女の顔に、何かの液体がかかる。
それは疣のようなものが無数についた不気味な触手が、運転席の男の額を貫いた時に飛び散った血の飛沫だった。
女の顔がみるみるうちに青ざめていく。

「キャ―――――アァアァアァア―――――」

裂けんばかりに大きく開いた女の口が半狂乱の叫び声をあげると同時に、彼女は車のドアを開け外へ飛び出していた。
車外は、今日が晴天だったにも関わらず薄黒い霧が立ちこめていた。
不用意にそれを吸い込んだ瞬間、彼女は激しい喉の痛みと脱力感を覚えその場に立ち止まる。



その足を、のたうつ蛇のように地面を素早く這ってきた何かがとらえ、彼女はバランスを崩して地面に倒れ伏してしまう。
続けてその「何か」は強靭な力で彼女の身体を後方へと引き寄せる。
彼女の指が地面を掴んで抵抗しようとしたが、それも空しい努力に終わった。

突然、引き寄せる力がピタリと止まり、彼女は思わず後方を振り返った。
太陽の光を背に受けて逆光に浮かぶそのシルエットは、まず頭の上に乗った大きな瘤のような物が目についた。
その瘤の下からは奇妙に蠢く触手が伸びている。彼女の足を掴んだのはそのうちの一本であるらしい。

「それ」が彼女に近づくと、その異形の姿がはっきりとしてくる。
頭上の瘤のように見えたものは、巨大な蛸であった。
その下には真っ黒に染め上げられた黒ずくめの女性の顔がある。
彼女の頭の半分を覆う蛸の本体からは8本の脚が伸びており、そのうち4本は両手両足に蔓のごとく絡み付いている。
残った4本もその妖艶さを強調するかのように女の豊満な肉体に巻きつけられている。

その奇妙な姿に女が助けを求めて叫ぼうと息を吸い込んだ時、瘤の正面から伸びる短い管が収縮し黒い塊を彼女目掛けて吐き出した。
吐き出された黒い塊は女に命中すると直ちに飛散し、黒く汚された衣服が徐々に溶けていく。



(な……何よ、これ!―――なんか……ベトベトする―――ふ、服が、溶けてるよぉ……これ、お気に入りだったのに……)
その様子を見ていた怪物が腕の触手を彼女に向けて伸ばすと、それから逃れようとするより早く触手が彼女の身体に触れる。
触手は付着した粘り気のある黒い液体を全身に延ばすように、緩急をつけながら彼女の身体を撫で上げていく。
最初のうちは黒い液体の粘り気と触手の触れる感覚を気持ち悪がっていたが、徐々にそれとは別の感覚が彼女の内から湧き上がってくる。

(……ベトベトするけど……なんだか熱くって……気持ち……い……い……)

それは彼女の体温を上昇させるとともに、思考をもじわりじわりと黒く侵していく。
自分では気づいていなかったが、そのうち彼女自身の手が液体を延ばすように乳房に、腕に、太腿に ―――
そして彼女の女性自身の奥の奥まで丹念に塗りつけていく。
触手の動きに加え、その行為もまた彼女の快楽を加速させる。

(もっと……もっと……黒いの……ちょうだい……アハッ……)

最後に黒く濡れた手で恍惚の表情を撫で上げたとき、全身をタイツで覆ったかのような真っ黒な女性の姿が黒い水溜りの中に浮かんでいた。
その身体は、全身に走る快感の余韻を楽しむかのようにしばらく小刻みな痙攣を続けていた。





――――恐れていた闇に完全にその身を委ねてしまうのもまた、本人にとっては幸せなことなのかもしれない。



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