Rising Red 〜G-fix Get Going!〜
ニシガハチ様 作
scene3.Decision to Fight!  3-1
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コーヒーショップを出て歩き始めた恵の耳に入ってきたのは、空気を切り裂くようなスリップ音と、車が衝突する鈍い音だった。
続いて人々の悲鳴がこだまするその方向へ、恵は弾かれるように駆けだしていた。

そこには通常の交通事故とは思えない阿鼻叫喚の惨状が展開していた。
玉を突くように次々と追突を起こした車の中では、眉間や胸を貫かれたドライバーが力なく斃れ、すでに火の手が上がっている車両もある。
また、走行中に同じようにしてドライバーが死亡し、舵を失った車が辺りの歩道や店舗に突っ込んだのだろう、
道路沿いのあちこちでパニックが起こっている。
車による被害以外にも、火災に伴うものとは違う黒い煙のようなものが立ちこめる路上では、多くの人たちがもがき苦しみ、
中にはもうすでに動かなくなっている者もある。

「くっ!」

思わず眉をしかめ歯噛みする恵の耳に、どこからともなく子供の泣き声が飛び込んでくる。
事故による炎を背にした幼い少女が、おそらく母親であろう倒れている女性の体を泣きじゃくりながら揺すっている。
だが女性の体は微動だにしない。
恵は少女の足元に忍び寄る気配を感じ取ると、その方へ飛ぶように駆け寄る。

「危ないっ!」

恵が少女の体を抱えて転がると、少女がいた背後の歩道のタイルを突き破って、赤みを帯びた触手が勢いよく天に向かって伸びた。
触手は手ごたえが無かったことを惜しむようにその身をくねらすと、再び飛び出した穴の中へ吸い込まれていった。

「逃げてっ!」

恵は抱えこんでいた少女に促す。
だが少女は恵の顔と倒れている母親と、触手の消えた歩道の穴とを交互に見ながら困惑している様子だった。

「あなたのママも必ず助けるから!早く逃げてっ!」

恵は、それがただの方便にすぎないかもしれないことを心の中で詫びながら、
少女に再び強い口調で、しかし表情はつとめて穏やかに、安全な場所へ避難するよう促した。
その言葉に少女は、しゃくりあげながらも比較的被害の少ない方へと駆けていく。

少女を見送った後、恵が倒れている女性の体を抱え起こすと微かに呼吸をしている気配があった。
ほっとした恵は火の手が回らない安全な場所へ彼女の体を移し、そして炎をの壁を見据えた。
その向こうからは風船のような巨大な頭と、奇妙に蠢く触手を伴った怪物の姿が近づいてくる。

(―――私は何のために戦ってるんですか?)

先ほど由美子に投げかけた自らの言葉が頭の中でリフレインし、再度自分自身に問いかける。

(―――目の前に襲われてる人がいたら「助けなきゃ」って思うでしょ。そういう気持ちが大事なんじゃないかしら)

「私は……私は……」

恵は握る拳にぐっと力を込め、歯を食いしばる。
―――と同時に恵の足元を突き破り触手が飛び出す。
その気配を察知していた恵は、それより早く地面を蹴って後ろに跳躍して避ける。

「fix!」

空中で両腕をクロスし、そう叫んだ恵の全身が眩い光に包まれる。



恵の全身を包んでいた光が消えると、その代わりに黒いボディスーツが彼女の体を覆っていた。

<G-fix system start up>

無機質な機械音声に続き、今度は黒いボディースーツの各所が赤い光を纏う。
その赤い光は瞬時に機械の鎧へと変化する。

<Grace Armament set up……and……G-fix system is complete>

そして美しい弧を描いて華麗に地面に降り立ったのは、
人工皮膚<アブソリュートスキン>の上から真紅の<グレイスアーマメント>を装着したX-fixの切り札、
対SSB用人型試作兵機―――「G−fix」の姿だった。
凛として立つ彼女の全身に、光の筋が走る。
それはまるで、燃える血潮が体内を駆け巡るかのごとく―――

恵がG−fixに姿を変えたのと同時に、怪物もまた彼女の近くまで迫ってきていた。
それはSSBによって送り込まれた<デュナイト>と識別される人間と他の生物の融合実験体
―――この場合はいわば<蛸女>とでも言うべきか―――の姿であった。

先ほど恵の足元を貫いた触手が引っ込み、
SSBによって「ヘレン」と名づけられたその怪物の右足へするすると戻っていく。

続けて左腕に巻かれていた触手が、螺旋を描いて真っ直ぐこちらに向かってくる。
直線的なその軌跡を見切るのは容易く、G−fixはそれをすり抜けるように間合いを詰めて相手の懐に飛び込んでいく。
そして、駆け出すと同時に素早く右手に構えていた<デュアルロッド>を水平に薙ぎ払い、怪物目掛けて力任せに叩きつける。

だが、その衝撃は怪物の右腕に巻かれた触手によって吸収されるように防がれてしまった。
「ヘレン」の顔に浮かぶ、触手と同じ生々しく不気味な赤色の唇が勝ち誇ったように歯を見せて哂う。



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