ハマダラカ女5
孫作様 作
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『モスキートチルドレン』にされた園児が一人、体育館からこっそり逃げ出していることに
気がついたのはそれからしばらく経ってからの事だった。

エイミーの元に送るサンプル体をピックアップしたハマダラ蚊女が下僕となった保母に
担当クラスの園児を整列させているときに園児の一人が居なくなっていることに気がついた保母が
血相を変えてハマダラ蚊女に報告に来たことで判明した。
「ハ、ハマダラ蚊女様…」
「ん? どうかしたの?」
エイミーから届いた付け爪を取り付けた手をかざし、うっとりとした表情で次の獲物を 手にかける妄想をしていたハマダラ蚊女が現実世界に引き戻された。
「ハ、ハマダラ蚊女様、園児が、『モスキートチルドレン』が一人……見当たりません」
ギョっとした表情で保母を見たハマダラ蚊女。
「あ、あなた、一人足りませんで済むと思っているの!!」
言葉と同時にハマダラ蚊女の平手が保母の頬を打ち据える。
「も、申し訳ございません。すぐに捜索に…」



「当たり前でしょう!! それで、逃げたのは女の子? 男の子?」
「は、はい、男の子です。2番目に怪人化液を注入した男の子です」
「あの子が…私が言った通り、憎しみを力にしたのかしら…ウフフ…頼もしい子。
 怪人化液を注入された子供の体力ではそれほど遠くには行けないはず
 あなたとあなた、一緒に保育園の外に探しに行きなさい。他の者は保育園内を捜索するのよ。
 『モスキートチルドレン』はその場にじっとしていなさい」
「「はい、ハマダラ蚊女様」」
元気な返事を返し、整列したままのモスキートチルドレンが直立不動でハマダラ蚊女の命令に従った。

その頃、保育園を抜け出した園児は身を隠す為に保育園の近所にある公園の植え込みの中に潜んでいた。
「ウ…ウゥン……痛い……痛いよぉ……」
股間を押さえて身体中に拡がる痛みに咽び泣く園児が
見慣れた白と黒のツートンカラーの車が止まっていることに気が付いた。
「あ…ァ……おまわりさん…たすけて……」
植え込みから這い出してツートンカラーの車に潜り込むと
後部座席の足元で丸くなり、そのまま意識を失った。

公園の周囲に止めている違法駐車の取り締まりに来ていた婦人警官の美樹となるみ。
「あれぇ? ボク、勝手にパトカーに乗ったりしちゃダメだよ」
作業を終えて車に戻ったなるみが園児に気付き声を変えたが反応はなく、ブルブルと震えているだけだった。
顔を見合わせてやれやれと言った仕草をした二人だったが
丸くなっている園児の背中が異様に盛り上がっている事が気になっていた。
「なるみ、この子……少しヘンじゃない」
盛り上がっている背中に触れようと手を伸ばした美樹。しかし
手が背中に触れる寸前でその膨らみがモゾモゾと動き、慌てて手を引っ込めてしまった。
「な、なによ、いま動いたよ」
車外に身体を出して屋根越しに相談をはじめた二人。
「なんか肌の色もヘンだし、病気じゃないの。  伝染病の類とかじゃ…ないよね」
不安そうに車内の園児に目をやるなるみ。
「わかんないけど、一番近い病院にでも運ぶ?……ん?、あの人たち…」
公園の反対側で物陰を覗き込み、探し物をしていますと言わんばかりの行動をしている
二人の女性に気が付いた美樹が指を指した。
「なるみ、あれって保母さんぽいけど、どう思う」
「え?」
なるみが振り返り、美樹の指差す方向に女性たちを見つけると
「そう見たい、この子を探してるのかも。 こっちに来そう出し聞いてみる?」
「そうね」
公園の角を曲がり二人の居る場所に近づいてくる女性たち。
「ボク、先生が迎えに来たよ。 どこか病院に行こうね」
なるみが上半身を車内に入れて園児に声をかけると、ビクッと身体を反応させて何かを囁きはじめた。
「??? 何、何て言ってるのボク。 美樹、この子何か言ってるけど……? カイブツ?」
なるみの言葉を聞いた美樹が運転席に乗り込み耳を澄ました。
「セン…セイ…カイ…ブツ……カイ…ブツ…イヤ…ダ……オネ…ガイ…タス…ケテ……」
「たすけて?」
助手席に乗り込んだなるみも園児の言葉に耳を傾けていた。
「たすけてって言ってるよね」
「ええ、匿ってあげたほうがいいのかも」
バックミラーを見た美樹。二人の女性が直ぐ近くにまで来ていることを確認すると
慌てて上着を脱いで園児を隠すように被せると、車のエンジンを始動させようとキーに
手をかけたときには車の外から二人の女性が車内を覗き込んでいた。
「な、何か御用ですか?」

窓を開けて女性に問い掛けた美樹。
「何もありません、失礼しました」
微笑んで応対してはいるがその目は美樹の上着に向けられている。
もう一人の女性も後方から助手席の方に回り込み上着の下を覗き込もうとしていた。
「御用が無いようでしたら、私たちは次がありますのでこれで」
美樹がゆっくりと車を発進させると、女性たちは反対方向に走り去って行った。
「あの二人、どう見ても怪しいわね」
バックミラーに映る二人の女性の後姿を見ながら話をする美樹。
「そうね。 で、この子どうするのよ」
なるみの言葉に運転しながら思案した美樹が
「この子のどう見ても普通じゃない。普通の病院に連れて行っても…… なるみ、先に戻って」
「はいはい、課長にバレないように上手くやっとくよ。 で、何処に連れてく気よ」
車を路肩に止めて車外に出た美樹が携帯電話で何処かへ連絡し
「詳しいことはあとで話すから」
園児を上着で包み抱き上げると後方から来たタクシーに乗り込んだ。

「先輩、ここは病院じゃないし、私は治療できないですよ」
中学高校とテニス部に所属していた美樹の一つしたの後輩だったアキ。
彼女は大学で遺伝子について研究している。 そのアキの研究室に美樹は園児を運び込んでいた。
園児を実験室と思われる部屋の机の上にそっと寝かせた美樹。
「普通の病院に連れて行くには少し……とにかく診てよ」
園児を包んでいた上着を開いたアキの眼が点になる。
「せ、先輩、なん何です、この子」
着ていた服が裂け、露になった背中の羽根に驚くアキ。
「だからここに連れて来たのよ…」
アキは棚からゴム手袋を取り出して両手に嵌めると園児の身体をあちこち調べはじめていた。
「人間本来の姿との大きな違いは、背中の羽に皮膚の変色って感じですね。 あっ、瞳の色も違う。
 女の子? 雌と言った方がいいのかな」
その目は興味津々といった感じで輝いている。
「アキ、その子は男の子だと思う。『みやもとこたろう』って名札が付いてる」
破れた園児の衣服を調べていた美樹がアキの言葉を否定した。
「そんな訳ないですよ、だって…」
美樹も園児の股間を見て納得するが。
「それじゃあ、この名札は?」
二人は顔を見合わせるが、答えが出る訳がない。
「教授は学会で3日ほど留守なんですよねぇ、ゆっくりこの子を調べてみますよ」
アキの眼鏡と瞳が妖しく輝く。
「とりあえず、血液検査と遺伝子情報の調査かな」
「アキ、この子は実験動物じゃないからね。解ってるよね」
「あっ、解ってますよ。間違っても解剖したりしませんから」 棚から様々な器具を取り出して楽しそうに検査をはじめたアキ。
「私は一度仕事に戻るけど、勤務終わったらまた来るから」
「はいは〜い」
不安を抱きながら美樹は研究室をあとにした。

「美樹、あの子の捜索願いはまだ出てないみたい」
夕刻、二人は勤務を終えて更衣室で私服に着替えをしていた。
「公園の近くにあるのは『あけち保育園』ってとこだけ。行ってみる?」
「ううん…あの子の事が心配なのよ」
「それじゃ、私一人で保育園に行ってみるよ。様子をみて『みやもとこたろう』って園児のこと聞いてみる」
「一人で大丈夫? あの子、怪物がどうのって言ってたし」
着替えを終えた美樹が着替え中のなるみを見やる。
「心配してくれてるの?」
「あの園児の姿を見た後だしね」
「それじゃあ一緒に来ればいいじゃない」
「……そうね、やっぱり気になるし一緒に」
「冗談、冗談よ。 私一人で大丈夫だから、美樹はあの子の所に行ってよ。
 私はそのアキって人のほうが気になるよ…あの子を解剖しちゃってかも」
職場に戻ってからずっと深刻な顔をしていた美樹の顔に笑みがこぼれる。
「それが一番心配なの」
「そうそう、アキさんの住所教えて。私もあとで行くから」
「…わかった。場所はあとで連絡するね。 なるみ、気をつけて」

To be continued...
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