ハマダラカ女3
Enne様 作
scene3-2
scene1
12
scene2
12
scene3
1│2│
scene4
12
scene5
12
scene6
12
stories トップへ

その流れを見つめるハマダラ蚊女の脳裏に
与えられた使命の完遂が、いま、はっきりと自覚される
『はぅ…命…令を完了…いたしましたぁ…、か、かんりょぅ、完了、あ…あ、くぅっ』
その瞬間彼女の中を何かが走り抜けた

『ひぁぁぁぁぁぁ』 声にも、無論言葉にもならない、もっと根源的な何か
身体の奥、一番深いところから彼女の心の外側に、じわり、じわ、じわ、じわと何かがあふれ出す

『こ、これ、これよぉ、わ、わたし、使命、使命を、め、命令をぉ…』
意識したとたん彼女の触角の先から爪先まで全てに電流のような幸福感が行き渡る

『わ、わたし、私は、い、いま、たった今、完成したのぉ、あ、あぁぁ』
ずっと探していたもの、どこかにあった満たされないことの不安
そんなものが全て、腋下から回収されたものと一緒に流れ出てていくようだった

そして、ぷつりっとノズルが外れた途端
ハマダラ蚊女の手は彼女の新しい肉体を、つい先日の改造によって新たになったそれを
確かめるように、またいとおしむように蠢きだした
体側に付いた、副腕までもが、その動きを今は淫らなものに変え、
つんつんと、彼女の胸の実りの先をつつき、摘み上げて彼女の身体を刺激し始める

やがて彼女の口からは、意味の取れない歓喜の声が紡がれ始めて
そして、その声は彼女だけでは済まず
回収室に集まった彼女の下僕達との合唱になって回収室を満たして行く

そして、ふとハマダラ蚊女の副腕が、隣にいたアヤノの身体に触れると
二人の副腕同士がもつれるように絡まりあい、やがて本来の腕同士、身体同士の接触から
それが愛撫へと、そして身体同士の絡まりあいに発展するのには一瞬で全てが足りていた



茶色い縞模様に覆われた塊がひとつ、二つと回収室に広がると
それはあっという間に回収室を満たし
やがて塊同士がアメーバーにでもなったかのように次々と大きさを変え、広がり
また分裂し、纏まり合うのを繰り返し
回収室の中にはもう嬌声と、艶かしい香りしか残されてはいなかった

「こ、ここ、これはっ、ハマダラ蚊女っ、や、止めなさい、止めろ、や、止めてくれぇぇ」
何事が起こったのか理解できずにいたエイミーが制止の命令を出したときには
もう塊が集合分裂を始める頃になっていて
自分の構想をはみ出して暴走し始めた彼女の作品が、彼女の命令で制止できないと判った時
エイミーはガラスに拳を叩きつけていた

しかし、ハマダラ蚊女達の狂態は止まらず、怒りと、そして恥辱にまみれたエイミーが
鞭でガラスを叩き割ろうとでもするかのように大きくその腕を振りかぶったとき
エイミーの腕に、ひんやりとした生白い手がふわりと被さる

その冷たさはエイミーの脳にドライアイスでも注入したかのように…

「かっ、神彌弥…っ」
エイミーの口調には恥辱と、そしてさらに絶望までが滲み出す
「総統に報告するがいいわ、勝手に、勝手になさいよ、そして笑うなり、私を更迭するなり…」
続くはずの言葉は神彌弥の脇に滲み出るように現れた黒い人影の出現で止められた

『こいつは絵夢…こいつまで入り込んでいたのか』
神彌弥の傍に影のようにして控える神彌弥の副官、エイミーもその名は知っていた

絵夢はエイミーに一礼すると、神彌弥に記録用の端末を挟んだ革装のバインダーを差し出す

「新型強化兵の運用テストを確認、テストの結果は良好、絵夢そう記入しておいて」
神彌弥の簡潔な命に絵夢が一礼で応える

「……どういうつもり?これで貸しでも作ったつもり?私の弱みでも握った気?」
歯軋りのような声がエイミーから漏れる
「あら、どうして貸しになるの?テストの結果は上々、違ったの?」
「白々しい事を、刷り込まれた命令遂行と幸福感のリンクが強すぎた、それで、それで…」
「許容範囲内でしょ?S.S.B.の要員らしくて良いじゃない、修正が必要ならしてあげれば?」
「神彌弥、私を、この私をなぜそんな保護者ぶった態度で…、馬鹿に、馬鹿にしてるわけ?」
悄然と自嘲気味に漏らすエイミーに神彌弥は、そっと近づき頤に手を掛ける
そして呆然とするエイミーの唇には、ベールのさらりとした感触とその向こうにある
柔らかい何かの感触がふわりと残る



「なな、なっ、何を、私にその趣味はないっ」
ロンググローブをつけた拳の背で自らの口を拭うエイミー
「あら、残念、その気になったらいつでも来て頂戴ね、絵夢と私で歓迎するから、さ、絵夢」
冗談ともなんとも付かない一言をその場に残して踵を返す神彌弥

そしてエイミーに丁寧な礼を無言ですると絵夢もまた神彌弥の影に同化するかのように
その場から消えさって
エイミーはガラスの向こうからまだかすかに聞こえる嬌声に身を包まれながら
ふと、もうひとつの何かが自分の身に纏わり付いている事に気が付いた

『これは…香り? さっきの神彌弥の香りなの?…で、でもでも、これは?
 私は、わたしは、これをワタシ…ドコカデ…』
記憶の底、今まで忘れていた何かが意識の上に這い出そうとしていた
何故かそれを拒否したい、そう思いながらも、あふれた記憶がエイミーの上に降りかかる

『これを…』
『嫌っ、こんなもの呑まない』
『香りを…』
『いっい、嫌ぁ、いや』
『香りを…』
『い…や…』
『香りを…』
『いい、香り…あ、まい、甘い、甘いの甘い、ひとくち、少し、少しだけなら。もっともっと…』



ワタシが由美子を捨てたとき、あの時の…

エイミーがエイミーとなってから、彼女は見ていた
神彌弥が配下に加える女性達の黒さを引き出す、あの儀式めいたやり口を
非効率的だし、女趣味の無い自分には無用の方法とそう見えた
それで今回の洗脳と改造を同時に行うもっと効率的な設備の開発に取り組んだのだが…

『でも、神彌弥が与えていたのは…そう、絵夢から汲み上げたはず、私もサンプルにして
 香りは知っているけど、私の時のとは別の香りで…』

『別?……私のと、き?』
ぐぎりとエイミーの思考が噛み合った

「わ、ワタシは、私は、ま、まさか神彌弥の…、そ、それで神彌弥は私にあんな態度を…」

指令卓に後ろ手を突いて力なく笑うエイミー
突然の訪問に、何かあったかと神彌弥たちをアジトの入り口で見送ったクインスこと官子が
心配そうに観察室を覗き込む

心配する必要は何もないのだ

間も無くいつもの一閃が彼女の上にいつものように下りるのだろうから

                                    END
scene1
12
scene2
12
scene3
1│2│
scene4
12
scene5
12
scene6
12
stories トップへ


(c)2005 kiss in the dark ALL RIGHTS RESERVED
使用画像及び文章の無断転載を禁じます